こんにちは。東京都議会議員(大田区選出)のやながせ裕文です。
五輪会場について。ボート、カヌーの競技場について「海の森」が優勢だという報道が続いている。バッハ会長の来日以来、大きく流れが変わってきたようだ。
そこで、今日はあえて「海の森競技場」の抱える課題についてまとめてみた。
1.「海の森」はアスリートファーストか?
これは、5大会連続で五輪に出場し「ボートの鉄人」と呼ばれる武田大作氏の発言がわかりやすい。産経新聞によると、武田氏は「海の森水上競技場は、そもそも競技にてきしていない。作ったとしてもレガシーにはなり得ない」と言い切っている。
「海の森」は羽田空港に近く離着陸の轟音が選手の集中力をそぐ。また、すぐそばに風力発電所があるように「強風」が吹く場所であり、コースには横方向から風が吹き込むことになる。武田氏はこの状況から「フェアプレーを担保するのは難しい」と述べている。
日本カヌー連盟の成田副会長は、「長沼」は地形的にカヌー競技のスタートの位置に強風が吹きやすい、として不適としている。これは「海の森」でも同様の課題となる。
はたして、このような状況で、アスリートファーストといえるのか?
2.「海の森」は300億円で整備できるのか?
バッハ会長の来日にあわせたように「海の森水上競技場」の整備費が、491億円から300億円に削減できるとの試算が飛び出してきた。一瞬にして約200億円のコストダウンだ。ここまで下がったからよしとしよう、という意見を聞くが、この試算には懐疑的だ。
この削減されたコストの内訳をみると、当初想定されていた追加工事費90億円が含まれている。これは、海と競技場を切断する「締め切り提」の工事費が条件変更によって増加する可能性を考慮したものだ。工事を進めるなかで、条件変更となる可能性があり、まだ工事が始まっていない段階で、必要がないとは言えない。
当初見込んだ通り、追加工事が必要となる可能性は残っており、現段階では必要経費として計上しておくことが妥当だろう。
そもそも、「海の森」は立候補ファイルで69億円だったものが、1000億円超に試算が膨れ上がった経緯がある。それが舛添知事の時代に491億円まで削減された。膨れ上がった主な要因として、予定地が軟弱地盤であることが判明し、地盤改良が必要となったからだとしている。この軟弱地盤であることも、今後の工事費用に影響を与える可能性がある。
役所は常として、事業の費用対効果を高くみせかけるために、安い工事費を見積もるものだ。都政に関連するものでは、豊洲新市場の本体工事や土壌汚染対策費、八ッ場ダムの建設費などがそうだ。当初は低いコストを提示して、事業化を勝ち取る。その後、条件が変わった(判明した)などと言って、次から次へと追加予算を獲得していく。終わってみれば、当初予算の数倍に膨らんでいたということになる。
バッハ会長の来日と同時に、ざっくりと300億円という試算がでてきた。このタイミングはあまりにも出来すぎている。これは、先ほどの話でいう「事業化を勝ち取る」ための試算となっているのではないか。
3.「海の森」は負の遺産とならないか?
いまだに維持管理費の試算は示されていない。「海の森」では海水の水質管理をすることとなっており、揚水・排水の施設管理が必要だ。これはどれだけの費用がかかるのか?
また、海水であることは、大会後の活用を見据えても課題となる。国内のボート競技選手は現状、淡水を基本としている。アルミ部品が多いボートは塩害に弱く、腐食が進む可能性が高いとのことだ。武田氏は「海の森は整備してもその後、選手らが利用しない可能性が極めて高い」と述べている。多額の工事費をかけて整備しても、後利用されなければ、維持費だけがかさむ負の遺産となってしまうだろう。
まもなく、会場見直しについての方向性が示される。五輪後も見据えて、納税者視線で厳しくチェックをしていく。