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2018/03/27

東京都迷惑防止条例、審議はたったの1時間。これでいいのか?

お知らせ / ブログ / 活動報告

こんにちは。東京都議会議員(大田区選出)のやながせ裕文です。

 

話題の「迷惑防止条例」の議決が29日と迫ってきた。遅ればせながら、私の見解を述べたいと思います。

 

結論から申し上げると、現状の審議では、あまりにも不十分であり、「継続審議」を求めたい。ですが、実質上この「継続審議」はあり得ないので、賛否を問われる現時点では「賛成できない」と考えます。

 

長文になるので、以下簡潔に理由を3点述べておきます。

①条例が「憲法違反ではないか?」という疑義が晴れていない

②なぜ、この条例が必要か(立法事実)の検討が不十分

③都議会は、都民の疑問を解消するだけの質疑をしていない

 

さて、今回の改正案は「盗撮を規制する場所の拡大」と「つきまとい行為の規制強化」が柱となっている。盗撮規制は、スマートフォンの普及等で、現行条例では対応できない場所を規制しようとするもので、評価できる。問題とされているのは「つきまとい行為の規制強化」だ。

 

今回改正される「つきまとい行為」に関する規制は、2002年に改正案で追加が提案されたが、都議会が反発し削除となった。その翌年、要件を厳格化して成立した経緯がある。つまり、一度は全ての会派で廃案にまで追い込んだことがある「事情のある案件」という認識が必要だ。

 

では、この「つきまとい行為」のどこが問題なのか?

 

1.憲法違反の疑義は晴れたのか?

 

条例反対派からは「憲法94条違反だ!」との指摘がある。94条では、条例は「法律の範囲内」で制定できると定めている。この「迷惑防止条例」が法律の範囲を超えているという主張だ。

 

例えば、今回の条例改正で規制される内容として「名誉を害する事項を告げること」が追加されている。正当な理由なく悪意をもって反復して「名誉を害する事項」のメール等を特定人物に送付するなどし、送られた側が不安を覚えれば、取締りの対象となるもの。警視庁は以下の例を示している。

 

仕事で研修会や会議に参加する度、自宅に「仕事も不倫もやりたい放題」などと書かれた手紙が送られてきたもの

 

 

この例示は深刻さが感じられず、あまり適切ではない気がするが、問題は別。これまで、このような行為は規制の対象とならなかった。名誉毀損にはならないし、ストーカー規制法では「恋愛感情」が必要だ。つまり、これまでの法律の規制範囲を超えているのではないかという疑義である。法律でも取り締まらないことを、条例で取り締まるのは憲法違反だという主張だ。

 

では、条例が法律の範囲を超えているか?憲法94条違反かどうか?はどうやって判断するのか。

 

これは「徳島市公安条例事件」という有名な判例があって、判断基準が示されている。 そのなかでは、問題となる法令と条例の両者の趣旨等に照らして具体的に判断する必要があることを明らかにしている。そして、 矛盾抵触があるかの判断基準として、同判例は以下の3要件を挙げる。

 

 ①ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうる。

 

②特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によって前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえない。

 

③両者が同一の目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえない。

 

これをわかりやすく単純化すると、こんな感じ。

 

①法律で「放置」すると考えているのに、そこに条例で規制したら違憲

②法律と条例が同じような内容でも、別目的であり、法律の効果を邪魔しないなら合憲

③法律と条例が同じような内容で、同じ目的であっても、地方の実情に併せた差異を容認する趣旨なら合憲

 

ということとなる。では、提案者である東京都はどのように考えているのか。都議会の質疑では自民党議員から94条との関連を問われて、警視庁は以下のように答えている。

 

憲法94条との関係については、判例において、条例が法令とは別の目的の規律を意図している場合のほか、同一の目的であっても、法令が実情に応じた別段の規制を容認する趣旨である場合、条例は法令に抵触しない旨、判示されているものと承知しており、今般の条例改正はこれを侵害するものではないと考えております。

 

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これは、判例の判断基準②と③を述べただけで、迷惑防止条例が具体的にどのような法律とどう関連するのか全く答えていない。この質疑は、追っかけの質問もなく、このテーマではなぜか共産党も質疑なし。警視庁が「合憲だ」と考えていることはわかるが、その根拠は明示されていない。

 

ここで、ストーカー規制法との関連を検討する。ストーカー規制法は恋愛感情(好意の感情)による「つきまとい行為」を規制している。一方で、迷惑防止条例では悪意の感情をもとにした「つきまとい行為」を規制しようとしている。つまり、「好意」か「悪意」かの感情の違いだけで、取り締まる行為は同じ。であれば、ストーカー規制法を「好意」に限定せず、「悪意」も含まれるように改正すればよいのではないか?なぜ、「好意」に限定したのか?

 

これは、「つきまとい行為」の88%が「恋愛感情」をもとにしたものであるという調査結果に基づくと同時に、立法時の答弁から理解できる。平成12年5月16日の参議院地方行政委員会で、「なぜ「恋愛感情」に限定したのか? 」と問われ、松村理事が以下の答弁をしている。

 

国民に対する規制の範囲を最小限にするためにも、規制の対象を、恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われるものに限ったところであります。

 

つまり、規制が広範とならないように配慮し、「恋愛感情」にともなう行為に限定したという答弁だ。規制していない部分については、法はそこまで規制を作る趣旨ではなかったとすれば、今回空白部分に条例を作ることは、放置する趣旨であるにもかかわらずこれを作ることとなり、①の基準から違憲となる。

 

東京都は②③の基準から合憲と答えているが、①の基準で違憲だという主張には反論していない。議論はすれ違っている。いや、全く「議論はない」と言った方が正しいだろう。なんせ審議時間はたったの1時時間しかなかったのだから。せめて都から「合憲」と言える根拠を丁寧に聞きだし、「違憲」のロジックへの反論も明らかにすべきだ。

 

憲法違反ではないかという疑義は、全く晴れていない。条例が違憲だという主張には、一定の説得力もある。このような状況で条例を成立させてよいのだろうか?

 

2.立法事実を軽んじていないか?

 

では、そのように「違憲ではないか?」と問われるような条例をつくってまで規制しなければならない理由は何か?なぜその条例が必要かという「立法事実」が重要となってくる。

 

そもそも、改正案で条例に追加される「監視していると告げること」「名誉を害する事項を告げること」「性的羞恥心を害する事項を告げること」については、ストーカー規制法では成立時(平成12年)から規制されていた事項だ。ストーカー規制法と足並みを揃えてきたのなら、迷惑防止条例が改正された時点(平成15年)で、この項目を入れてもおかしくない。だが、これらの項目は入らなかった。

 

これは、ストーカー規制法の立法趣旨に関する答弁にあるように、「国民に対する規制を最小限にするため」という趣旨に配慮したものではないか。そのわざわざ除かれてきた事項を、なぜいま追加する必要があるのか?立法事実が重要となってくる。

 

しかし警視庁は「現行条例で対応できない追加項目について、重大事件に発展した事案」を問われて、以下のような答弁をしている。

 

各号の追加行為に該当する事案から重大事件に発展した事案につきましては、統計がないため、回答いたしかねます。

 

これは、極めてお粗末だ。警視庁は「重大事件に発展するおそれがあり早急に対応が必要」だから改正が必要だとしながら、重大事件事案を把握していないという。「これから重大事件が起こる」と主張するのであれば、せめて、重大事件に至らなくても、問題があった事例を列挙するなど丁寧に説明をするべきだ。これも、質疑のなかでは触れられていない。

 

3.都議会は、役割を果たしていない

 

これまで述べてきたのは、論点の一部で、私が特に注目したところ。今回の改正案は幅広い視点から疑問が呈されている。この声に議会は応えているのだろうか?

 

条例案の審議は実質1時間。最大会派の「都民ファーストの会」は「改正は必要だと考えるが、改正の必要性と効果は?」という1問だけ。反対派の共産党も都による「合憲」という主張を突き崩す質疑はなく、ツッコミが不足したまま終了している。

 

「正当な理由なく」や「悪意の感情」という文言が曖昧だという批判がある。これに応えるために、「正当」「悪意」の判断基準や認定手続きなど、ひとつひとつの事例を挙げながら、規制範囲の水際を明らかにすることが必要だろう。

 

また、「政治運動等への規制がされるのではないか」という濫用への懸念については、「濫用禁止規定」に止まらず、付帯決議や条文に具体的に書き込むなど手当てがあってもよいのではないか。他自治体で「濫用された事案がない」から「都でも濫用がない」とは言えない。自治体ごとに採用している規制事項が異なるのも、自治体による差異があるからだ。

 

この条例案は、重大な利益を制約する可能性がある条例で、丁寧な議論・対応が必要だった。残念ながら、委員会審議はわずか1時間で終了し、本会議で採決を残すのみとなった。審議が不十分であることは明らかだ。都議会は役割を果たしているのか?引き続き本案件を厳しくチェックしていく。